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佐藤家のお雛さま 庄内町・鯉川酒造
杉下花、佐藤晶子=取材・文
text by Sugishita Hana,Satoh Akiko
毎月2月25日頃、酒米を蒸す作業が終わる
造り仕舞の時期に、お雛さまを飾ってきました。
お雛さまは、造り酒屋にとって、季節感の象徴です。


 庄内町の鯉川酒造が伝説の酒米「亀の尾」にこだわって造りだす純米大吟醸などの日本酒は、今や日本だけでなく、アメリカ市場でも高く評価されています。鯉川酒造株式会社社長、佐藤一良さんは昭和34年生まれ。
NPO法人「極楽鳥海人」のメンバーであり、作詞・作曲・演奏・歌唱を手がけるミュージシャンとしても活躍しています。雛の季節は、酒造りの大事な時期にあたるため、佐藤家のお雛さまは今も一般非公開となっていますが、昨年春、初めて拝見に伺うことができました。
  庭に面した12畳間に設えた佐藤家の雛段には、内裏雛、三人官女、五人囃子2組などがあり、右手の雛段には、抱き人形や花嫁衣裳、趣向人形、羽子板、手製の御殿まりなどが飾られていました。内裏雛は新旧の二対があり、古い一対は江戸時代後期・京都製の古今雛、新しい古今雛は近代になってからのものでしょうか。堂々とした豪華な雛段ですが、不思議と穏やかな静けさを感じさせます。
古今雛(江戸後期・京都製)

古今雛
  鯉川酒造の創業は古く、江戸時代の享保10年(1725)。余目地区が幕府の天領だった時代に当地に酒造を構えて、約280年。代々、佐藤多郎左衛門を襲名してきました。佐藤一良さんは11代目。平成四年、お父様の淳一さんが65歳で急逝されたため、32歳の若さで、老舗酒造の跡を継ぎました。

趣向人形や抱き人形の背景に
花嫁衣裳が飾られている。
「母屋は明治にかけて建てたものですが、この座敷のある建物は、大蔵を建てた時期とほぼ重なるので、お雛さまは、初代ではなくて、2代から3代の頃に購入したのではないかと思います。鶴岡工場を開設した時、鶴岡の旧家から茶室なども持ってきたので、お雛さまもそちらから来たのかと思って調べてみたんですが、どうやらお雛さまは全部、うちに伝わったもののようです。一番新しいのは母のもので、母が子どもの頃から大事にしてきた抱き人形や、母の花嫁衣裳も飾っています」。市松人形の「桃子ちゃん」は、3月生まれの朋子さんの誕生を祝って贈られたもので、ふだんは茶の間に飾られているそうです。

お雛さまにBGMは要りません。この無為の空間と静けさがいいんです。

佐藤家の雛段飾り
毎年、新酒の季節になると、取引先などをもてなすために、庭園に面した客間にお雛さまを飾るという佐藤家。歴史を感じさせる重厚な雛段である。

  佐藤家では、毎年2月下旬になるとお雛さまを飾っています。新米の収穫を終え、酒造りが始まるのが、11月の下旬。寒さが最も厳しくなる真冬に、新酒の仕込みは最盛期を迎えます。「うちでは造り仕舞と呼んでいますが、甑倒しともいって、酒米を蒸す作業が終わるのが、毎月2月25日頃なんです。もろみは発酵を続けているんですが、甑倒しが終わると、工程が非常に楽になります。そしてその頃になると、今年の新酒の出来ぐあいを見るために、酒屋さんだとか流通関係者といった、お酒の販売のプロの方たちが毎年、酒蔵に見学にやってきます。おもてなしの準備で、家内をはじめ、女性陣が忙しくなるのもこの時期です。わが家では、その時期に合わせて、お雛さまを飾っているわけです。昔は、絞りたての新酒を雛段に備え、お雛さまを眺めながら、商談を交わしていたのではないでしょうか。私もその伝統を受け継いでいきたいと思います。ですから、佐藤家のお雛さまは、あくまで造り酒屋のお雛さまであって、季節感の象徴であると同時に、仕事のためのものであるんです。一般に非公開にしているのは、そのためなんですよ」。

  多忙な日々を送る佐藤さんは、仕事が混んで、気持ちをリセットしたい時、一人でこの座敷に来て、ほんの5分ほど、お雛さまの前で、ぼーっと座っていることがあるそうです。「お雛さまの穏やかな顔を見ていると、お寺で座禅を組んでいるような気持ちになります。
お雛さまにBGMは要りません。この無為の空間と静けさがいいんです。特に古いお雛さまは、そんな空間を持っていると思います」。新酒の熟成を待つ時間、お雛さまの静かな空間の中で、新しい夢もまた育まれていきます。


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古今雛
こきんびな
 明和(1764〜1772)の頃、江戸池の端の雛人形問屋、大槌屋半兵衛が十軒店の人形師、舟月に作らせ、売り出した江戸製の雛である。写実的で艶やかな顔は歌舞伎の役者のような美しさで、たちまち人気を集めて、江戸だけでなく、京、大坂でももてはやされた。雛といえば古今、というほどに流行した。
藤田順子著『雛の庄内二都物語 酒田と鶴岡のお雛さま拝見』SPOONの本

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