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山に魅せられて41年。
出会えた仲間たち、
目にした風景、撮れた写真は、
生涯の宝です。


志田郁夫写真集『山に魅せられて』に掲載された写真より。3度にわたって登ったヒマラヤでの記念写真上段は第1回目で、酒鉄山岳部歴代会長の守屋春男さんや佐藤俊一さんの顔も見える。鳥海山の四季の風景は美しく、朝夕の影鳥海やブロッケン現象の写真も。左上は、生まれ故郷、波渡崎から見た海に浮かぶ鳥海山。


  志田郁夫さんは、山行41年のキャリアを持つ山男で、「みちのく山岳写真同人」の一員として、鳥海山をはじめ、国内外の山岳風景を撮影してきました。昨年10月末に41年間勤続したJR東日本を定年退職し、これまでの山岳写真を集大成した志田郁夫写真集『山に魅せられて』を出版。12月22日に、出版を祝う会が開催され、山を愛する仲間たちがお祝いに駆けつけました。

  写真集は「鳥海山│四季の表情」「ぐるっと鳥海」「更なる高み│ヒマラヤへ」「足跡│あの日の山々」の4部構成で、個人出版の非売品。膨大なフィルムから、撮影者の思いを汲んで編集する作業には、「みちのく山岳写真同人」の1人で、旧友の佐藤要さんが協力しています。
「祝う会で祝辞をいただいた大先輩の佐藤淳志さんから、この写真集には、佐藤俊一さんの名前が6回も出てきたよ、と言われました」と志田さんは笑います。佐藤俊一さんは、志田さんにとって、職場と山と写真の先輩であり、生涯の盟友でもありました。「俊一さんと出会ったから、私は鳥海山に登るようになり、写真も撮るようになりました」。

  昨年12月に出版された志田郁夫写真集『山に魅せられて』と、志田さんが1998年から2007年まで10年間にわたって、毎年2ヵ月ごとに発行してきた山岳写真のポストカード。
   
  志田さんの故郷は、鶴岡市堅苔沢の波渡崎。庄内の西の端、海の美しい波渡崎で、海に浮かぶ鳥海山を眺めて育ちました。学生時代は駅伝のランナーとして鳴らしたスポーツマン。父も兄も船乗りでしたが、なぜか船に弱い志田さんは、高校を卒業すると、国鉄新潟支社酒田機関区に入社します。ある時、酒田の寮を訪ねてきた俊一さんが、「休日に海辺でテントを張ろうと思って」廊下に置いてあった志田さんのテントを、登山用のテントと勘違いしたことから、2人は出会いました。志田さんが入社した翌年、19歳の時でした。「酒鉄山岳部の最初の鳥海登山は4月末でした。私はそれまで高校の学校登山で月山に1度登ったことがあるだけでしたから、雪で濡れたキャラバンシューズで足が冷えきって、辛い思いをしました」。写真撮影を始めたのは、それから5年ほど後。「俊一さんから、28ミリレンズのアサヒペンタックスを貸してもらったのが、きっかけです。広角レンズしかないので、山の中の撮影が主で、モノクロのコントラストの強い写真を撮っていました」。やがて、ありのままの自然を写そうと、カラー主体の撮影となっていきました。

  一方、「いつもの山仲間」、酒鉄山岳部の守屋春男さん、佐藤俊一さん、志田さんの3人は、ヒマラヤ登山を夢見ていました。「月給が3万円台の頃、無理して買った白川義員写真集『ヒマラヤ』を開いた時の衝撃は忘れることができません。落日に照らされて、燃えるように赤く染まるエベレスト南西壁がありました。このような色調のヒマラヤを自分の目で確かめてみたいと思いました」。3人の夢が実現したのは1979年12月下旬。その後、お二人は、病気のため、相次いでこの世を去りました。俊一さんの逝去は97年2月18日。志田さんは、99年、3度目のヒマラヤ登山の折、俊一さんの遺影を抱いて、2人の宿願だったカラバタールに立ちました。

  奥様の京子さんは、ご自身も山歩きを愛し、終始、志田さんの山行を温かく理解し、見守ってきました。2年前に、惜しくも亡くなられましたが、生前、こうおっしゃったそうです。「あなた、退職する時には、多くのお世話になった方たちに何かを残しなさいね」。その言葉が今回の写真集の生みの親となりました。「私にとって、鳥海山は、ふるさとの山、心の山であり、四季を通して、いつ登っても感動は尽きません。山に魅せられたおかげで、すばらしい仲間に出会い、すばらしい風景を見ることができました。撮影できた写真も含めて、私の生涯の宝です」。


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志田郁夫さん
みちのく山岳写真同人

1947年(昭和22)、鶴岡市堅苔沢に生まれる。66年、日本国有鉄道新潟支社酒田機関区入社。みちのく山岳写真同人の山岳写真展などに多数出展。2007年10月、JR東日本を退職。12月に志田郁夫写真集『山に魅せられて』を出版。
 

⇒ 志田さんは、みちのく山岳写真同人に加えて、日本山岳会、日本山岳写真協会、HATーJ、山形県写真連盟、鳥海山ワシタカ研究会、酒鉄山岳部にも所属。山形県写真展入選5回など受賞多数。「鳥海山」に関する執筆も多い。

佐藤晶子=取材・文
text by Sato Akiko

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