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  石塚家の歳夜膳
本膳は、時計回りに、ぜんまいと薄揚げの煮物、はららご。8寸に見立てた五品は、栗きんとん、田作り、数の子、昆布巻き、黒豆。
鯛の尾頭付き、鯛のお吸い物、氷頭なます。
二の膳は、同じく、からげ煮、鮭の味噌粕漬けとアワビの酒蒸し、カタバミ紋の椀に盛り付けた鶏肉と野菜の炒り煮、温海カブの漬物。


石塚亮さん
Ishizuka Ryo

鶴岡市三瀬の老舗旅館「坂本屋」の9代目当主。早稲田大学教育学部卒業。荘内藩主が食された「献上膳」を再現。藤沢周平の海坂藩ものの小説から庄内独特の食を取り出した「海坂膳」を創出。『週刊藤沢周平の世界』に「海坂の食卓」を連載。



石塚家のお雑煮
鴨肉を使い、レンコン、ニンジン、ゴポウ、椎茸に、焼いた丸餅を加えて、仕上げにセリと温海産の岩海苔を載せ、柚子を添えたお雑煮。セリと岩海苔の香りが広がって、
鴨肉の脂が溶け出した醤油仕立てのすまし汁が、絶妙の味をかもしだす。「城下町鶴岡」の伝統を感じさせる逸品です。


庄内の食文化の薫り漂う
「坂本屋」の「海坂膳」。

木造りの古き良き香りに温もりがあふれる旅館「坂本屋」の創業は江戸時代の享保年間。
庄内の旬の食材を厳選吟味、素材本来の持ち味を生かした郷土料理は当主自ら腕をふるう。
宿泊、宴会、海坂膳などの食事は要予約。
鶴岡市大字三瀬 己91
TEL.0235-73-2003

  庄内海岸を南に向かい、湯野浜から由良を過ぎて、温海に向かう
手前に鶴岡市三瀬があります。三瀬の老舗旅館「坂本屋」の当主、
石塚亮さんに、石塚家の歳夜膳とお雑煮を作っていただきました。


  鶴岡市三瀬の旅館「坂本屋」は、文化4年(1807)、荘内藩主10代忠器公の領内巡行の折に、昼食を献上したことで知られる老舗です。「三瀬の氣比神社の勧請にともない、当地に移ってきたのであろう」と伝えられている坂本屋に、9代目当主の石塚亮さんをお訪ねしました。亮さんは、石塚忠さん、才子さんの長男として生まれ、「献上膳」を今に伝える料理人でもあります。
  石塚家では、毎年、大晦日に氣比神社にお参りして、古いお札を納め、新しいお札をいただいてきます。しめ縄と紙垂を飾り、神棚や厨房にお札を納め、鏡餅を供えた床の間に初日の出の掛け軸をかけて、正月飾りを済ませたあと、家族揃って、歳夜膳をいただきます。「父の代までは、年越しの宿泊客はとらなかったんですよ。父は、年越しは自分の家でするものだ、と言っていましたから」。
  時代は変わったとはいえ、今も昔も坂本屋は元日早々、新年の宴席でにぎわいます。三瀬では、33歳、42歳、49歳、61歳を迎えた男女が、元日に氣比神社でお祓いをしてから、直会をする風習があります。「夫婦、家族揃ってお越しになるので、毎年、新年の座敷は、にぎやかです。ただ、うちの場合は、職業柄、家族が揃うのは大晦日と、元日の朝に神様を拝む時と、お雑煮をいただく時くらいで、あとは初詣でも別行動になりますね」。
  石塚さんにお願いして、石塚家の皆さんが大晦日に家族揃っていただく歳夜膳と、元旦にいただくお雑煮を作っていただきました。
  歳夜膳には、からげ煮や鮭の味噌粕漬けといった定番の郷土料理に加えて、あわびの酒蒸し、氷頭なます、「お客様には小骨まで抜いた尾頭付きの半身でお出しする」という鯛の塩焼きのほか、田作り、黒豆、栗きんとんに煮しめ、身欠き鰊の昆布巻などが並んで、美しく豪華です。
  お雑煮は、数あるレシピの中から、「鶴岡らしさのあるものを」と工夫して、鴨肉を使い、仕上げにセリと温海産の岩海苔を載せ、柚子を添えたものを作ってくださいました。香り高く、美味しい逸品です。
  石塚さんは昭和27年生まれの55歳。早稲田大学教育学部卒業後、東京の新宿と日本橋の料亭で修業。帰郷して、坂本屋を継いだのは、31年前のことです。「坂本屋の味」を追求する石塚さんは、料理屋の若主人の会「芽生会」への入会を機に、京懐石の奥深い世界に出会います。京料理の知識や技術を熱心に修得する過程で新たな発見がありました。「ここ庄内で京料理を極めたとしても、所詮は“京風”にすぎませんよね。ここで京都を超えられるのは、この土地の食材を使った郷土料理しかない。そのことに気づかせてくれたのが、藤沢周平文学であり、藩校致道館の庄内藩学の基となった徂徠学でした」。庄内の食材や食文化を調査し続けながら、石塚さんは、200年前の文書に残る「献上膳」を再現し、藤沢文学の海坂藩ものに描かれた故郷庄内の四季のごちそうを、「海坂膳」として創り出しました。
  そんな料理人としての石塚さんを奮起させてくれるのは、鶴岡市家中新町界隈の舌の肥えたお客様。「毎年、季節ごとにいらしては、どこそこで食べたのはもう一つだった、などと言いながら、今年の寒鱈の味、サクラマスの味などを吟味なさるんです。いい意味で、緊張しますね」。食膳の一品一品を、その本質まで深くとらえ、原点に向き合って賞味する姿勢には、「沈潜の風」を重んずる鶴岡の精神風土が感じられます。「技術も知識も隠してしまうと、進歩が止まってしまいます。相手に対して自分を開き、相手の懐も開かせる。そこから新しいものや次の目標が見えてくると私は思っています」。伝統を受け継ぎながら、自由な学びと個性を尊重し、つねに新しい目標に挑戦する。その温故知新の精神から新たに作り出されていく坂本屋の味、庄内の味が、今年も楽しみです。

庄内の郷土料理に開眼するきっかけは、
藤沢周平文学と、藩校致道館の庄内藩学の
基となった徂徠学との出会いでした。

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秋野栄美子、佐藤晶子=取材・文
text by Akino Emiko,Satoh Akiko

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