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  石寺家の歳夜膳
一の膳は、右上から時計回りに鮭の粕漬け(裏白椎茸添え)、納豆汁、きんぴらごぼう、お造り。二の膳は同じく時計回りに、からげ、昆布巻き、数の子、卵寒天、ごまめ、大根なます、ハリハリ大根、黒豆、錦玉子、蒲鉾、子漬け(タラノコの醤油漬け)。


石寺憲和さん
Ishidera Norikazu

酒田市生まれ。國學院大学卒業後、「吉兆」にて3年間の修行を積み、帰酒。江戸時代より続いた老舗料亭「相馬屋」の板場でも腕をふるった。昭和56年に日本料理店「井筒」を開業。現在は東京・六本木にも支店を構える。



石寺家のお雑煮
からとり、もだし、わらび、なめこ、豆腐、こんにゃくが入った庄内風のお雑煮。いただく直前に丸餅を焼いて、仕上げにせりと刻みねぎ、岩のりを添えます。
「干したからとりや、塩漬けした山菜は、昔ながらの保存食。こういう食材を上手に使う先人の知恵は、すごいよの」。




庄内の山海の幸を
「旬味 井筒」で堪能。

焼き鳥やさつま揚げ、刺身、天ぷらなど庄内の山海の幸をふんだんに取り入れた幅広いメニューが揃う。地酒の種類も豊富。
【本店】酒田市中町2-3-27 TEL.0234-24-1422
【六本木店】東京都港区六本木4-12-2 TEL.03-3470-4122

  酒田市中町の日本料理店「井筒」は、四季折々の食材を
生かした料理に定評があります。今回は店主の石寺憲和さんに、
石寺家に伝わる正月ごっつぉを作っていただきました。


  日本料理店「井筒」のオーナー、石寺憲和さんは、会社員のお父様と、美容師のお母様の長男として生まれました。下町そだちの、いわば生粋の酒田っ子です。「母の味は、もう少し甘くて濃いんですけども」と作ってくださった歳夜膳には、酒田の伝統料理が、彩り豊かに並びます。
 お母様のイツノさんは、幼少期を酒田で過ごし、15歳で髪結いの修行のため上京。帰酒後は「ノバ美容室」を開業し、その優れた技術で、花柳界をはじめ多くの女性の支持を集めました。「母は店の仕事の合間を縫って、正月の準備も着々と進めていました。餅は道具がなくて作れないから、餅つきの上手な家に頼んだこともあります」。憲和さんが学生の頃は、お正月に日本髪を結う女性が多く、年末の美容室は目の回るような慌しさに見舞われました。クリスマスを過ぎると、賀詞交換会に出席する花柳界の方々が、カツラを預けに続々と来店。それを事前に洗い、結い直す作業を施します。30日からは、一般客やデパートの店員さんの髪を結わなければなりません。
「とにかく混んで、仕事終わりは深夜2〜3時。お客さんも、うちの茶の間で順番待ちするもんでした。私たち男性陣は、掃除が済んだら隣の部屋でゴロ寝するしかねけの(笑)」。元旦も、早朝から髪を整えに来る初詣客があとを絶ちません。午後になってようやく、石寺家にも静かな時間がやってきます。美容室で働く住み込みのお弟子さんも一緒に、正月膳やお雑煮、あん餅などをいただきました。「タラノコの醤油漬けやハリハリ大根は、子どもの頃から大好きでした。母は数の子に目がなくて、2万円近いものをドーンと買ったこともあります。当時の大卒の初任給と同じでの、驚いて見ていたら、『お父ちゃんさ、黙てれよ』って(笑)」。ゆっくりと正月気分を味わう間もなく、2日からはまた仕事。11日には鏡開きをして、かき餅や福取り餅を食べましたが、それ以外の正月行事をする機会はありませんでした。歳夜を祝ったり、初詣に出かけるようになったのは、日本髪を結う人が少なくなってからのことです。
  憲和さんは大学を卒業後、料理人を目指して関西屈指の料亭「吉兆」の門を叩きます。創業者の湯木貞一氏のもとで、日本料理の真髄を学びました。今回、鮭の粕漬けに添えた「裏白椎茸」は、そんな修行時代に覚えた一品。白身魚のすり身を椎茸のかさの裏に形よく塗り、蒸し上げます。裏表のない純粋な心を表現した、縁起のよい料理です。「酒田ではあまり見かけませんが、同じく『ウラジロ』という名のシダの葉を、料理の飾りに使ったりもしましたね」。
  吉兆での3年間の修行を終えると、酒田の老舗料亭「相馬屋」の板場に入ります。「関西の華やかな料理に比べると、相馬屋の料理はとても素朴なんです。たとえば正月なら、関西では伊勢えびとか鯛の生寿司とかを詰めて、豪華なおせちを作りますが、相馬屋では地元の伝統ごっつぉが主流です。外見は地味だけど、私は酒田の味のほうが美味しいと思うの」。
二の膳につけた錦玉子は、相馬屋で婚礼があると、よく供されたそうです。「母に作り方を教えたら、いつしか正月の一品に加わりました」。
  その後、独立を果たした憲和さんは、昭和56年に「井筒」をオープン。平成17年には、東京に2店舗目を構えるまでになりました。支店では、ご長男の裕輔さんが暖簾を守ります。イツノさんは昨年、86年の生涯を閉じましたが、伝統の味はしっかりと、次世代へ託されています。「相馬屋時代に、弁慶飯を作るのが上手な人がいて、『昔は弁慶飯のことを、晩秋の紅葉に燃える山に見立てて“もみじ山”って言うたんよ』って教えてくれての。酒田の食文化は奥深くて、まだまだ知らない部分があると実感したんです。今後は、そうした文化を探っていくとともに、この店から郷土の味の魅力を発信していきたいと思っています」。

華やかな都会のおせちに比べて、酒田の正月料理はとても素朴。
だけど、なんともいえない味わいがあるよの。

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秋野栄美子、佐藤晶子=取材・文
text by Akino Emiko,Satoh Akiko

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