かゆずしは、酒田のお正月に欠かせない御馳走で、1992年12月号でご紹介しましたが、近年、NHKのハイビジョンで本間美術館本館を舞台に、かゆずしを含む、光子さんのごっつぉが紹介されてから、お問い合わせが多かったため、光子さんにお願いして再度作っていただきました。このかゆずしは、ご飯や魚を自然発酵させた、いわゆる「馴れずし」を簡略化したものです。「これは三軒茶屋の私の実家で、正月には必ず作てたなんども、子供の頃は、やだぐでの。んめどは思わねがったの。でも最近なてがら懐かしぐなて、口を頼りに思い出して作り始めだな。私がだの年代でも、そう言えば、食せらっだけの、でも作りがだだばわがらねっ
て、みんな言うもんだけ」。
まずは米2合に餅米1合を合わせて柔らかめに炊き、人肌に冷ましてから、麹3合をほぐしたものと、日本酒90ccを全体に混ぜ合わせます。そして炊飯ジャーで6〜7時間ぐらい保温してから、外に出して、自然に冷まします。「昔はこたつさ入れだり、湯せんしたりしてだんども、ジャーさ入れだらって思いついだな。甘みが出で、柔らかくなるまでの。あんまり長時間保温すっど、色変わてしまうさげの」。
中にまぜる具は、塩味が少し残ったぐらいの数の子を1センチほどに切ったもの(これは、折れ数の子で充分)。色よく空いりしたギンナン。梅型に形どり、さっと塩茹でした薄切りの人参。刻み昆布を2センチぐらいに切ったもの。そして細かく刻んだ柚子の皮。その分量はそれぞれのお好みで。
かゆずしがすっかり冷めたら、柚子以外の具を混ぜ、味を見ます。数の子の塩加減によって違いますが、ここで、麹のうまみを助ける程度の塩を少々加えます。たくさんはいりません。そして、最後に柚子をまんべんなく散らして、できあがり。すぐ食べるよりも、そのまま室温で(暖房のないところで)3日ほどおいて、ゆっくりと発酵させると、味が馴染んで、よりおいしくなります。「中さ入れる具は、その家で違うど思うんども、数の子とかギンナンは、いっぺ入った方がおいしいの。私の実家でも、戦争中は、数の子ねさげだが、作らねがったもんだけ。それから、ギンナンの薄皮取りは容易でねものだんども、いい方法があっての。ひびを入れて厚手の鍋で空いりして、殻取ったギンナンどご、もう一度、小鍋さ戻して、全体の半分被るくらいの塩水入れで、木ベラでいるように擦ると、薄皮が簡単に取れんな。これはぜひ試してみでくださいの」。麹の力で、ご飯と鮭などの魚を発酵させて、いただく馴れずしは、手間のかかる贅沢なごっつぉ。光子さんのかゆずしは色どりが美しく、味あんばいが抜群で、酒田のおふくろの味として伝えたい逸品です。 |